ABeam Consulting Ltd.

[CRMコラム第2回]


2008年05月01日
アビームコンサルティング株式会社
プロセス&テクノロジー事業部 CRMセクター マネージャー
村田 浩成

「グローバルプロジェクトの勘所」

今や、多くの企業が何らかの形で海外での事業を展開しています。対象となる業務プロセスは 製造/開発・販売・サポートなど多岐にわたり、展開拠点も複数拠点に及ぶ事も珍しくありません。アビーム コンサルティングも、多くの企業のグローバル戦略に伴う、経営改革・業務プロセス改革・システム開発/導入などの支援を行っています。
筆者自身もグローバルプロジェクトの難しさを実際に経験していますが、一方で多様な価値観に触れることのできる、面白いプロジェクトです。ここでは、実際に筆者が関係したプロジェクトを題材に、グローバルプロジェクトの勘所を紹介したいと思います。
ここで取り上げるプロジェクトは、クライアントが日本の製造業で、文書管理システムの構築・導入するプロジェクトです。クライアントはグローバル展開しており、日本がプロジェクトオーナーとなり、システム導入対象国も欧米を中心に数十カ国になりました。プロジェクト期間は1年以上となり、筆者自身はプロジェクトマネージャーとして参画しました。
グローバルプロジェクトの課題
グローバルプロジェクトは、多くの地域・文化・組織を跨るプロセスやシステムの導入となるため、一般的に次のような課題に直面します。
  • 情報共有に多大な時間・労力を割く必要がある
  • それにもかかわらず、認識のずれ・伝達の遅延が生じる
  • 合意形成に時間がかかり、すべてのステークホルダーの要求を満たすレベルに達しにくい
  • 結果的にスコープの変更・縮小やプロジェクトのスケジュール遅延が発生する
そのため、グローバルプロジェクトでは、特に組織(国)間の色々な差異やコミュニケーションに気を配る必要があります。
組織(国)間の“差異”といっても、さまざまなものがあります。コミュニケーションを密にすることで埋まるものもありますが、背景を正しく理解していないと埋まらないものも多く存在します。いくつか見てみましょう。
グローバルでの違いとは
1.コミュニケーションスタイルの違い
日本企業の文化の一つとして、調和型で暗黙的な理解で仕事が進むという点がありますが、グローバルでは通用しないケースが多くあります。特にプロジェクトという場では明示的に意図を伝える必要が生じます。”便りがないのは無事な証拠”というのは間違いで、コミュニケーションが無いことはそれぞれの思い込みを生みますし、特に欧米圏では”何か良くないことが起こっているのではないか”という無用な疑念を抱くことになります。”解っているよね”・”やってくれいているはず” ではなく、標準化・文書化・可視化し、頻繁にコミュニケーションを行うことが需要になります。
また、日本では謝罪からコミュニケーションを始めることが多いですが(大変恐縮ですが、申し訳ありませんが、~など)、欧米文化では、”非がある”と受け止められてしまいます。筆者のプロジェクトでも、プロジェクト進捗の遅れを報告する際に”申し訳ありません”から入ったために(遅れは想定内でリカバリーできたのですが)、会議が意図しないところで紛糾してしまったことがあります。
2.法律・商習慣・ビジネスモデルの違い
この”違い”の多くは、システム導入のプロジェクトでは要件定義の段階で吸収されているとは思います。ただし、筆者の経験上、要件の”重み付け・優先順位”という観点で留意すべき点があります。グローバル展開する企業の多くが製造業で、日本側は製造業のビジネスモデルでいわゆるものづくりのマインドセットですが、一方海外の拠点が販売会社の場合サービス業のビジネスモデルになります。筆者の文書管理プロジェクトでは日本側で決定したテンプレートをもとにしていましたが、日本側は文書を提供する側ですから、テンプレートは管理的な側面の比重が高くなりました。しかしながら、海外側ではその文書を利用して販売やサポートに活用することになりますから、彼らからは、ユーザーインターフェースやパフォーマンス関連への変更要望が多くあがりました。そもそもマインドセットが異なるため、プロジェクトオーナーである日本側ではなかなか判断がつきにくいものですが、最終的には主要な海外拠点のビジネスモデル(要望)も取り入れた形でテンプレートを更新しました。
要望を取り入れる際には、優先順位の判断の理由を具体的に示すことが必要です。ここでの場合には、海外拠点でのサービスKPIなどを利用することで要望の具体化を行いました。例を挙げると、コールセンターでの顧客への回答の対応時間です。文書管理システムを利用して対応するため、対応時間にはシステムの応答スピードが影響します。そのため、システムのパフォーマンスはこのKPIをもとに対応レベルが決定されました。
3.インフラの違い
システム導入のプロジェクトであるならば、避けられない点です。特にインターネットを含めたネットワークの整備状況は国によって大きな差があります。また、文書管理システムなどの機密性の高い情報を取り扱う仕組みでは、海外のネットワーク・PCのセキュリティ対応に気を配る必要が生じてきます。
グローバルプロジェクトでのコミュニケーション
次に、今までキーワードとして出てきているコミュニケーションについてみていきたいと思います。
1.プロジェクトの目的・ゴールを明確にし、進捗を共有する
グローバルプロジェクトにかかわる多くのステークホルダー・特にユーザー部門は、通常はそれぞれの拠点・組織で業務を行っています。プロジェクトの現場から離れているため、時間の経過に伴いプロジェクト全体の目的・利益があいまいになり、普段から慣れ親しんでいる組織の個別利益に目がいきがちになります。この際に、プロジェクト当初からゴールを明確にすることはもちろんですが、定期的にコミュニケーションすることで個別の議論をできるだけ極小化することができます。できるだけコミュニケーションを密にとって、多くのステークホルダーに見える形で共有する(可視化)ことで、プロジェクトへの関与意識を高めることになります。
2.Face-to-Faceのコミュニケーション
いくらコミュニケーションをメールや電話で行ったところでFace-to-Faceのコミュニケーションに勝るものはありません。しかしながらプロジェクトには期間や工数や要員の限りがありますので、このコミュニケーションを効果的なタイミングで行うことが重要です。プロジェクトのキックオフは当然ですが、重要なマイルストンでの中間報告として海外拠点の主要メンバーとミーティングを行うなどプロジェクトへの関与や理解度を高めるために必要になってきます。
筆者のプロジェクトでは、グローバルコミュニケーションスタッフが中間報告のため日本-アメリカ-ヨーロッパ-日本と、世界一周してプロジェクト報告を行ってきたことがあります。本人はさすがに疲れきって帰ってきましたが、直接話すことでいくつかの思い違いが判明したり、新システムへのそれぞれの思いを実感することができたりするいい機会でした。それ以来、海外拠点のクライアントメンバーからファーストネームで呼ばれるようになり、通常のメールや電話でのコミュニケーションもスムーズになりました。やはり、コミュニケーションする際に、相手の顔を知っているということは、より具体的に相手のことを考えることができるというメリットがあります。
また、海外への出張もしくは海外からの来日ではディナーが催されることが多くあります。このような場ではインフォーマルなコミュニケーションにはなりますが、信頼関係を醸成するのにいい機会です。
3.コミュニケーションはフォローアップが必要
筆者の経験で、プロジェクトに関わる重要な意思決定を海外拠点のメンバーにメールと電話会議で依頼したことがあります。期限は決めましたが、特にフォローしなかったために期限までに履行されないケースがありました。依頼した側からは、拠点が離れているため、相手の進捗状況や理解度・負荷状況が分かりにくく、履行されるか否かは相手の認識次第になり勝ちです。
4.効果的なコミュニケーションツール
通常はメールや電話会議を利用すると思いますが、Web会議の仕組みをお勧めします。筆者自身の関与したプロジェクトでもこの仕組みを利用して、プレゼンテーションやワークショップ、プロトタイプのデモンストレーションやトレーニングのインストラクションを多拠点で行いましたが、双方向でのコミュニケーションに問題はなく、効果的に実施することができました。
おわりに
このプロジェクトはクライアントでも初めての取り組みである、ユーザーを巻き込んでのグローバル展開であったため、要件の齟齬などいくつかの厳しい局面を迎えました。しかしながら、最終的には各国から次々とサインオフを頂き、国別ロールアウトステータスがグリーンに変わっていくという感動を日本・海外双方のクライアントと共有することができました。英語が母国語ではない日本人としては、海外とコミュニケーションを完璧に行うことは難しいと思います(特に現場のレベルでは)。心がけるべきは、表面的な内容が伝わっているかではなく、その意図が理解されているかどうかです。”相手を知りたい”という観点もあわせてコミュニケーションを心がければ、プロジェクトの楽しみも増えるのではないでしょうか?
<プロフィール>
村田 浩成
プロセス&テクノロジー事業部 CRMセクター マネージャー

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